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2015.6.20【矢倉かつおです!】Vol.70:安全保障法制と憲法整合性

2015.6.20 Saturday

矢倉かつおです。

司法試験受験生だった20年ほど前、「日本国憲法のなかで、どの条文が一番重要か」と問われたことがあります。

答えは、13条でした。

日本国憲法13条は、国民一人一人の「生命、自由及び幸福追求に対する」「権利」は「最大の尊重を必要とする」と規定します。これは、いわゆる「基本的人権の尊重」の根拠規定であり、国民の平和的生存権の基礎ともなるものです。憲法9条をはじめとする「平和主義」や「国民主権」もこの13条の価値を実現するためのものである、というのが、その人の考えでした。なるほどと納得した記憶があります。

今、問題となっている安全保障法制が実現しようとする問題意識は、この憲法13条により国家に課された「国民の生命、自由及び幸福追求の権利」を守るという責務を果たすためには、憲法9条のもと、どの程度の「自衛の措置」が認められるか、というものです。その意味で、これは憲法価値を実現するためのものであり、憲法破壊行為では決してありません。

今、その安全保障法制と、「集団的自衛権は憲法上許されない」とする従来の憲法解釈との関係が、再び、議論されています。三人の憲法学者が違憲と言及するなど、注目をあびています。議論が錯綜している状況ですが、ポイントを出来る限り簡潔に記したいと思います。

まず、前提として重要なことは、「集団的自衛権は憲法上許されない」との従来解釈について、これは、政府(内閣)自身のものであり、裁判所の判断ではない点です。

日本の裁判所は、「高度に政治判断を有する事項」について、原則として「裁判所の司法審査権の範囲外」であるとし、判断を避けてきました。(「統治行為論」と言います)。

最近よく引用される1959年(昭和34年)の最高裁判決(砂川判決)も、その本文を読む限り「日本は自衛権を持っている」と述べるだけであり、集団的自衛権の可否を含む「自衛権の範囲」について、正確には言及していません。つまり、「認めている」とも「禁止している」とも述べていません。

裁判所の判断が無かったため、「憲法9条のもと、日本の自衛権はどこまで許されるか」という「自衛権の範囲」の問題は、もっぱら国会質疑における内閣法制局を中心とする政府の答弁によって形作られることとなりました。その一つの到達点が、1972年(昭和47年)に出された「集団的自衛権と憲法との関係」と題する内閣法制局見解(「72年見解」)でした。ここではじめて、「集団的自衛権は憲法上許されない」との政府見解が確立し、それを維持してきました。

ですので、今、議論すべきことは、政府による昨年7月の閣議決定が、72年見解をはじめとする政府自身の従来見解と論理的、安定的に整合しているかである、であると整理出来ます。

以上を前提に、安全保障法制が違憲か合憲かが問題となりますが、憲法学者の先生方を含め、違憲性をご主張されている方々のご意見を確認させていただきたいと思います。

まず、『政府が、砂川判決を根拠に集団的自衛権を認めるのは誤りであり、違憲だ』というご意見がありますが、これは幾分、誤解もあるかと思います。既述のとおり、砂川判決は「自衛権の範囲」について判断していません。これまでの政府解釈も昨年の閣議決定も、砂川判決が認めた自衛権の存在を前提に、その範囲を定めてきました。政府や関係者も、砂川判決は閣議決定を「許容」している(つまり「認めている」ではなく「禁止してない」)とは述べますが、砂川判決から直接、今回の閣議決定が導かれると考えているわけではありません。ですので、批判は誤解に基づくものと考えます。

次に、『集団的自衛権を認める閣議決定や安全保障法制は、『集団的自衛権は憲法上許されない』とした従来議論から「180度の転換」だから違憲だ』というご意見があります。

しかし、事実の問題として、安全保障法制は、72年見解にいう「集団的自衛権」を全面的に認めたものではありません。「日本の安全を守るために自衛権はいかにあるべきか」という議論から導きだされた結論部分の一部が、国際法上、「集団的自衛権」とみなされるおそれがあるため、これを許容したに過ぎず、いわば「個別的自衛権に匹敵するほどの集団的自衛権」といっていいものです。

(ご参考:昨年のメルマガです。 http://www.yakura-katsuo.jp/?p=863 http://www.yakura-katsuo.jp/?p=865 )

また、『72年見解の基本的な枠を外れるから違憲だ』というご意見もあります。

しかし、このご見解に対し、そもそも72年見解の基本的な枠とは何かという点があります。

72年見解は、「集団的自衛権は憲法上許されない」と結論部分を述べる前に、このように述べます。すなわち、

『「自衛のための措置」は「外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという、急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための止むを得ない措置としてはじめて容認されるものであるから、その措置は、右の事態を排除するためにとられるべき必要最小限度の範囲にとどまるべきものである」』と。

実は、72年見解の基本的な枠(核心的部分)とは、この箇所です。

この箇所ののち、「そうだとすれば」という接続詞をうけ述べている箇所が、「集団的自衛権は憲法上許されない」という部分です。つまり、この箇所は「あてはめ」です。

「あてはめ」というものは、その時々の状況を前提にするものであり、状況が変われば変化しえます。ミサイル技術の進歩など安全保障環境の変化によって、現在は、他国に向けられたような攻撃であっても、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされる」場合が生じるというのが政府の考えです。そのような場合を念頭に、今回、昨年の閣議決定により厳格な新三要件のもと「個別的自衛権に匹敵するほどの集団的自衛権」を許容したものです。ちなみに、お気づきの方も多いと思いますが、この「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされる」という72年見解の核心部分は、新三要件の一つに組み込まれています。

この72年見解の基本的な枠とは何かを厳密に議論しないまま、閣議決定および安全保障法制は『72年見解の基本的な枠を外れるから違憲だ』とすることは、すこし議論として雑だと思います。

他に、合憲違憲の判断とはレベルの違う話ですが、よく出るご意見は、『今回、政府が想定している事案は個別的自衛権で対処できるものだから、わざわざ集団的自衛権を認めなくてもよいのではないか』というものです。

この点は、実は、公明党内でも議論されたところです。

今回の安全保障法制により、例えば、日本の領海の外にある公海上で、日本の防衛のために警戒監視をしている米艦船に対し攻撃がなされた場合に自衛隊が対処することが可能となります。つまり、日本に向けられた攻撃は無いが「日本を守る他国」に対する攻撃がされた場合も対処できることとなります。

これについて、「日本を守る他国」を守るのだから日本の防衛そのものであって、「個別的自衛権の行使」でよいのでは、というのが先ほどのご意見の趣旨です。これは、一部、納得できる部分もあります。私個人としても、「自衛のため」か「他衛のため」かは、相手の攻撃が自国に向けられたか他国に向けられたか、という基準だけでは必ずしも拾いきれず、もっと端的に「日本が危険にさらされているかどうか」という結果面から考えるべきであり、個別的自衛権と集団的自衛権という概念の整理もその観点からすべきではという思いもありました。

しかし、政府内には、「日本を守る他国」に対する攻撃であっても「他国に向けられた攻撃」である以上、これは集団的自衛権といわざるを得ないのだ、という主張が大勢を占めました。そのため、最終的に昨年の閣議決定は、今回の新三要件の範囲を少なくとも「国際法上は」集団的自衛権であると整理したものです。

以上が、安全保障法制の憲法整合性に関する議論のうち主なものです。

現実の国会論議は未だ非常に分かりにくいです。

この責任は、説明責任を果たし切れていない政府にもありますが、野党にも原因があると思います。

野党の責任は、政府が提示した考え方の矛盾点などを暴き出すことかと思いますが、おおかたの野党の主張は、政府の提示している考えそのものの議論をあえて行っていません。アメリカのイラク戦争その他の事案などを強調し、政府は「戦争法案」を通すために憲法解釈をねじ曲げているというイメージだけを膨らませようとしています。扇動するような野党の論理には、真摯な議論を望む側として失望を禁じ得ません。

この議論を開始するにあたり、与党、とりわけ公明党が常に抱えていたのは、憲法9条を死守しつつ、「日本の安全を守るために自衛権はいかにあるべきか」という至上命題にいかに答えるか、という「悩み」でした。その後、公明党は政府と2時間前後の会合を何十回も開催してきました。

この公明党の動きについて、民主党政権時代に防衛大臣もされた森本敏拓殖大学特任教授は、

『健全な野党とは、ただ「反対」だけでなく、「あるべき国の姿を示すため健全な批判者」としての役割も求められる。民主党にはそれができておらず、ある意味、公明党が与党内野党となって、その責任を果たしてきた』と評価してくださっています。

野党の皆様においては、もう少しこの「悩み」を共有し、真摯に議論していただきたい。改めて思います。

政府も説明不足の点があり、さらに誠実にやっていただきたいと思います。

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